「玉ねぎなんて、丸かじりできますよ」
移住者同士で集まると、なぜかこの話題になる。
佐賀の何がいいのか、という話だ。
自然がいい。
野菜が新鮮でうまい。
そこに佐賀の人がいると、必ず出てくるのが——
「福岡が近い。」
すると、誰かが言う。
「それ、佐賀じゃなくてもよくない?」

佐賀市。キラキラ感はないが、ゆとりがある。
豊かな生活は、自然の癒しだけでは成り立たない。当然、利便性も必要だ。
Yahoo!ニュースでよく見る「地方に移住して大後悔」という記事。スーパーまで車で30分、バスは2時間に1本では、生活ではなく修行になってしまう。
その点、私の住む佐賀市は「なかなか便利だ」と思っている。都会のようなキラキラ感はないが、街は清潔で、ゆとりがある。コンビニには運動会ができるような駐車場があり、スーパーには巨大な野菜が積まれている。
東京から来た友人は、なぜか少し悔しそうに言う。
「……意外と便利だね」
佐賀の人は、道案内に方角を使う。
「あの病院から北に行って、西に進むんだよ」
最初は戸惑ったが、今はドラクエみたいで、悪くない。
古い食堂に入れば、そこには昭和がそのまま残っている。
店内では謎の日用品が売られていたり、あのコインを入れる丸いおみくじ機が普通にあったり。
食堂のお母さんは「そんな薄着で寒くないね?」「これも食べてみなさい」と、親戚のような距離感で接してくる。
こんどジャージで来てみよう。

昭和がそのまま残っている。
最近行った床屋のマスターは、絶対に一度も仕事で手を抜いたことがない人だった。(たぶん)
誠実さが仕事から溢れだしている。接客に隙がない。店の中は新しくはないが、掃除が行き届いている。
サービスってこういうことだよな、としみじみしてしまった。
少なくとも、佐賀にいる間はここで髪を切りたい。
3年経って、ようやくわかってきた。
佐賀には、ドラクエのような日常と、家族のような他人、思わず尊敬してしまう職人がいる。そんな飽きない人たちで、ここはできている。
「佐賀、なんもなか?」そんな人には、こう返せばいい。

理屈じゃない。
「とりあえず、この玉ねぎでも食ってみなよ」
この街の本当の良さは、そういう手触りの中にある。





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